京都地方裁判所 昭和60年(行ウ)34号 判決 1988年3月15日
京都市左京区田中大久保五八番地の四
原告
沖山国保
右訴訟代理人弁護士
高田良爾
京都市左京区聖護院円頓美町一八番地
被告
左京税務署長
森下巳代治
右指定代理人
石田浩二
同
橋本敦
同
三好正幸
同
谷川利明
同
前川忠夫
同
樋口正則
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一申立
一 原告
1 被告が原告に対し昭和五九年二月二四日付でした原告の昭和五五年分の所得税の決定処分及び無申告加算税賦課決定処分を取消す。
2 被告が原告に対し昭和五九年二月二四付でした原告の昭和五六年分及び昭和五七年分の所得税の更正処分並びに過少申告加算税賦課決定処分を取消す。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
二 被告
主文と同旨。
第二主張
一 請求の原因
1 原告は、被告に対し、昭和五六年分及び昭和五七年分の所得税の確定申告をした。
被告は、昭和五九年二月二四日付で原告に対し、昭和五五年分の所得税の決定処分及び無申告加算賦課決定処分、昭和五六年分及び昭和五七年分の所得税の更正処分並びに過少申告加算税賦課決定処分をした(以下、本件処分という)。
原告は、本件処分に対し、異議申立及び審査請求をした。
以上の経過と内容は、別表1記載のとおりである。
2 しかし、本件処分には次の違法事由がある。
(一) 被告は、税務調査につき、第三者の立会いを認めず、且つ、理由の開示をしなかつた。
(二) 被告は、原告の本件係争年分の所得金額を過大に認定した。
よつて、原告は被告に対し、本件処分の取消を求める。
二 請求の原因に対する認否
請求の原因1の事実は認め、同2の事実は争う。
三 抗弁
1 原告は、昭和五五年分の所得税について申告をしなかつた。
2 被告の部下職員は、原告が昭和五六年分及び昭和五七年分の確定申告書に所得金額の明細を記載しなかつたため、昭和五八年八月二三日に原告方に架電して原告の妻に本件係争年分の所得税の調査をしたいと告げ、その後も数回にわたつて架電し面接日等を打合わせるための連絡を待ち、同年一一月九日に原告方で原告の妻に面接したうえ、同月二八日及び昭和五九年二月一五日に原告方に臨場して原告に対し、所得金額を確認するための調査であると告げて、本件係争年分の所得金額の基礎となる帳簿書類等の提示と事業内容の説明を求めた。しかるに、原告は、調査に関係がない第三者を同席させ、その立会いを強く要求して、調査に応じなかつた。
そのため、被告はやむなく半面調査のうえ推計課税の方法で本件処分をしたのであつて、本件処分に手続的瑕疵はない。
3 原告の本件係争年分の所得金額は、別表2記載のとおりである。
(一) 被告が把握した原告の売上金額は、別表3記載のとおりである。原告は、昭和五五年以前から昭和五七年七月頃までは京都市左京区田中西樋ノロ町五一番地において、その後は肩書住所地において、昭和五六年六月頃までは岩本電気、その後は沖電気の屋号で、電気配線工事業を営んでいる。
(二) 算出所得金額は、右売上金額に別表4ないし6記載の同業者算出所得率(同業者の算出所得金額をその売上金額で除した割合の平均値)を乗じて算出した。
被告は、右同業者算出所得率算定の基礎とする同業者の選定にあたり、原告の事業所を管轄する左京税務署のほか、隣接の上京、中京及び東山の各税務署から、青色申告により所得税の確定申告をしている者で、次の条件に該当する者を抽出したところ、別表4ないし6記載の事例を得た。
イ 電気配線工事業を営んでいること。
ロ 他の業種目を兼業していないこと。
ハ 年間を通じ継続して事業を営んでいること。
ニ 事業所が各署管内にあること。
ホ 本件係争各年分の所得税につき不服申立又は訴訟が係属中でないこと。
ヘ 売上(収入)金額が、昭和五五年分については七五〇万円以上二三〇〇万円未満、昭和五六年分については一八五〇万円以上五六五〇以上三九〇〇万円未満の範囲内であること(原告の本件係争年分の各売上金額を基準にして、下限はその約五〇パーセント、上限はその約一五〇パーセント)。
右同業者は、業種、業態、規模及び営業地域等において原告と類似性があり、青色申告であるからその数値は正確である。従つて、右同業者から同業者率を算定し、これを原告に適用することには合理性がある。
(三) 地代家賃は、原告が富田隆夫に支払つた京都市左京区田中樋ノロ町五〇番地所在の駐車場の使用料である。
利子割引料は、原告が信用組合京都商銀左京支店に支払つた手形割引料である。
(四) 事業専従者控除は、原告の妻に係る分である。なお、昭和五五年分は所得金額等の申告がないから事業専従者控除の適用がない。
以上によれば、原告の本件係争年分の事業所得は本件処分を上回っており、本件処分は適法である。
四 抗弁に対する認否
被告主張の所得金額を否認する。
1 売上金額につき、別表3記載のうち、株式会社日光エンジニアリング、日本プラミング株式会社及び岡崎電工から同記載の金具を受領したことは認め、これが売上金額であることは否認し、その余(堀内電気商会を除く)の売上金額は認める。
2 推計の合理性を争い、算出所得金額を否認する。
3 地代家賃及び利子割引料を認める。
4 事業専従者控除についての被告主張事実を認める。
第三証拠
記録中の証拠に関する調査記載のとおり。
理由
一 原告が昭和五六年分及び昭和五七年分の所得税の確定申告をしたこと、被告が本件処分をしたこと、以上の経過と内容が別表1記載のとおりであることは、当事者間に争いがない。
原告が昭和五五年分の所得税の申告をしなかつたことは、原告において明らかに争わないことから、これを自白したものとみなされる。
二 原告は、被告が税務調査につき第三者の立会いを認めず、調査理由を開示しなかつたと主張する。
しかし、
1 抗弁2の調査についての経過は、原告が明らかに争わないからこれを自白したものとみなされ、また、証人中島孝一の証言によれば、調査担当者は昭和五八年一一月二八日及び昭和五七年二月一五日に原告方に臨場して原告と面接したが、いずれも民主商工会事務員一名が立会を希望し、退席の要求に従わなかつたために、調査に着手しなかつたことが認められる。
2 調査にあたつて第三者の立会いを認めるか否かは原則として調査担当者の裁量に委ねられていると解されるところ、右の事実に徹すると、本件調査において第三者の立会いを拒んだことが違法であつたと認めるべき特段の事実は窺えず、かかる特段の事実についての主張もない。また、調査担当者が調査にあたつて具体的調査理由を開示しなかつたからといつて、その調査が違法であるとは言えない。原告が調査の違法事由として主張するところは理由がない。
3 以上によれば、被告が反面調査のうえ推計課税の方法で本件処分をするも止むを得なかつたと言うべきである。
三 原告の本件係争年分の事業所得金額
1 売上金額について
(一) 株式会社日光エンジニアリング、日本プラミング株式会社及び岡崎電工から別表3記載の金額を受領したことは当事者間に争いがなく、原告はこれが売上でないと主張するところ、証人沖山道枝の証言及び弁論の全趣旨によれば、右株式会社日光エンジニアリングからの収入金額は同社が原告の施工した配電管を破損したことによる修理代金であると認められるから、その性質上、同社に対する売上金額と言うべく、また、日本プラミング株式会社及び岡崎電工からの別表3記載の金額は電気工事による売上金額であると認められ、以上の認定、判断を左右するに足る証拠はない。
(二) 堀内電気商会に対する売上金額については原告において明らかに争わないからこれを自白したものとみなされる。
(三) その余の売上金額は当事者間に争いがない。
2 所得の推計について
(一) 原告が、昭和五五年以前から昭和五七年七月頃までは京都市左京区田中西樋ノロ町五一番地において、その後は肩書住所地において、昭和五六年六月頃までは岩本電気、その後は沖電気の屋号で、電気配線工事業を営んでいたことは、原告において明らかに争わないからこれを自白したものとみなされる。
右当事者間に争いがない事実及び及び前掲沖山の証言によれば、原告が行つていた電気配線工事は主としてビルの配線工事であつて、家庭用の配線工事は稀であること、原告は右事業のために従業員を雇わず、必要があれば応援の工事人を依頼していたことが認められる。
(二) 証人樋口正則の証言により真正に成立したと認める乙四号証ないし七号証の各一、二及び同証言によれば、次の事実が認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。
被告は、原告の事業所を管轄する左京税務署のほか、隣接の上京、中京及び東山の各税務署から、青色申告書により所得税の確定申告をしている者で、電気配線工事業者で、他の業種目を兼業せず、年間を通じ継続して事業を営み、事業所が右各署管内にあり、本件係争各年分の所得税につき不服申立又は訴訟が係属中でなく、原告の本件係争各年分の売上金額の約五〇パーセントから約一五〇パーセントまでの者を抽出し、別表4ないし6記載の事例を得たことが認められる。
右同業者は、業種、業態、規模及び営業地域等において原告と類似性があり、青色申告でその数値は正確であり採用した同業者数も多いから、右同業者から同業者算出所得率(算出所得金額を売上金額で除した割合の平均値)を算出し、前記売上金額にこれを乗じて原告の算出所得金額を推進することには合理性があると言うのが相当であり、他に、推計課税の合理性を左右する事実はない。
(三) 以上によれば、算出所得金額は別表2記載のとおりとなる。
3 地代家賃及び利子割引料は当事者間に争いがない。
4 事業専従者控除については、当事者間に争いがない。
5 以上により原告の本件係争年分の事業所得金額を計算すると、別表2記載のとおりとなること、計数上明らかである。
以上によれば、本件処分は右に認定した事業所得金額の範囲内であり、被告が原告の本件係争年分の事業所得を過大に認定した違法はないと認められる。
四 よつて、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 井関正浩 裁判官 田中恭介 裁判官 榎戸道也)
別表一
課税の経緯
<省略>
別表二
事業所得金額の計算
<省略>
別表三
原告の売上金額明細表
<省略>
別表四
同業者の算出所得率表
(昭和55年分)
<省略>
(注)<3>算出所得率=<2>算出所得金額÷<1>売上金額
別表五
同業者の算出所得率表
(昭和56年分)
<省略>
(注)<3>算出所得率=<2>算出所得金額÷<1>売上金額
別表六
同業者の算出所得率表
(昭和57年分)
<省略>
(注)<3>算出所得率=<2>算出所得金額÷<1>売上金額